5月3日(金・祝)の映画公開を間近に控え、風間太樹(かざまひろき)監督×原作者むつき潤(じゅん)の対談が実現!!
『バジーノイズ』を通じて共鳴し合う同世代クリエイター二人の超・濃密インタビューをお楽しみください。
――はじめて原作を読まれた時の印象をお聞かせください。
風間: 清澄(きよすみ)のクリエイターとしての葛藤や、人間関係に足踏みしてしまう姿に自分自身を投写しながら読んで、読後感は、長くて暗いトンネルを潜り抜けていくような清々しい印象を持ちました。清澄が他者と交わるときに感じる緊張や不安に対しての共感性が強かったのだと思います。また、清澄の音楽描写が秀逸だと思いました。幾何学的な音のカタチと、シンプルな線で表現された音楽が清澄と他者とのコミュニケーションの広がりや変化に同期するように描かれていて、言葉ではなく音を通して気持ちが伝わってくるような感覚がありました。映画化においても自分の持ったその感覚を大切にしたいと思いました。
――連載当時を振り返ってみて、記憶に残っていることはありますか?
むつき: 『バジーノイズ』は「バンド漫画やりませんか?」と、編集部から声をかけてもらったのが始まりでした。外部からのきっかけだったからこそ、当時は自分の文脈に回収してやろうみたいな意識が強くて。あと、初連載だったので自分にしか描けないものへの意識もありました。DTMやサブスク、SNSというモチーフや絵柄にしても、既存の音楽漫画へのカウンターであろうとか、ちょっと違ってやろうみたいな気持ちが強くありましたね。
――映画化が決まった時のお気持ちを教えてください。
むつき: 嬉しいというよりも、安堵が大きかったです。作品の映像化は、作家としてのこれからを考えた時に、僕と担当編集さんの間で掲げていた目標の一つでした。あと、沢山の漫画の中から『バジーノイズ』を選んで、読んでくださった読者さんに顔向けできる一つの指標だとも思っていました。なので、映像化が決まった時は安堵の気持ちが強かったですね。
風間: むつき先生は映画化に対して、すごく背中を押してくださいましたね。
むつき: 映画化にあたって原作を尊重するあまり、風間監督の個性を損なわせないようにしてくださいと、窓口になってくれている編集部の方にお伝えしました。そもそも原作『バジーノイズ』に対する良い評価って、DTMというモチーフの珍しさや音楽の視覚表現が新しいとか、漫画というプラットフォームに限定された話が多いんですよ。こういう漫画としての評価は映画に持ち込めない部分なので、映画としての価値を追求するのはすごく大変だろうなと思いました。だからもう、そこにこそ邁進して欲しいっていう気持ちでした。
▲連載当時、音楽漫画における新しい視覚表現の発明が話題を呼んだ。(単行本3巻29話)
風間: 原作で描かれた音のカタチ、ノイズ、黒いモヤモヤなどを踏襲しつつ、映画ならではのイメージ表現を考えます。と事前の打ち合わせでお伝えしました。清澄を形成するそれらを大切に扱いたかったのと、清澄の頭のなかを覗き見るような映像表現が出来たら楽しそうだと思ったんです。「音像の広がり」「ノイズ」この2つにテーマを絞り、清澄の脳内世界を映画に組み込んでいます。同時に、清澄の気持ちの変化を音楽と表裏一体のものとして描いていくことも大切にしました。清澄の音楽が清澄の言葉であるように、音楽を通して清澄の気持ちがじんわり伝わってくるような、そんな映画を目指しました。
▲清澄の脳内世界は映画でどう表現されたのか? 是非スクリーンでお確かめあれ。(単行本1巻1話)
――映画制作の中で、何か印象深い出来事はありましたか?
風間: 作曲・演奏シーンを俳優がどのように演じて、それを映像としてどのように捉えていくのか? これが本当に難しかったです。例えば、清澄の作曲中の所作が振り付け的になってしまうと、途端にライブ感や説得力がなくなってしまう。瞬間の閃きで音を繋いでいく清澄を演じる難しさが、川西拓実(かわにしたくみ)さんにはずっとあったと思います。また、撮影者も同様に、清澄の鳴らす音の流れを的確に摑んで動き、撮影する必要がありました。清澄が音楽に没頭している時間に寄り添う照明も大切で、ここは深海のようにしたい、ここは光の巡る速度を上げたいなど、シーンによってイメージを細かく共有していました。キャストやスタッフそれぞれの“音への感覚”が現れた作品になったと思います。
▲清澄の作曲・演奏シーンは、原作・映画ともに大きな見所の一つ。(単行本1巻1話)
むつき: 映画を観た時に、世界観のビジュアライズとキャラクターの解釈が原作と大きく異なると思いました。ビジュアルに関していうと、漫画のほうは黒と白でパキッと作っているのに対して、映画は青を基調に自然光でふんわりとさせた印象。世界観や人物を切り取るための輪郭線へのアプローチが真逆に近いのかもなと感じました。でも、そういう絵作りの映画が個人的に大好きなので、観ていて目が楽しかったです。
――先ほど仰っていたキャラクターの解釈についてはいかがでしょうか?
むつき: メディアミックスの素敵なところって、原作の魅力を最大限に活かしてもらって、かつ原作にない魅力を引き出してくれることだと思っているのですが、今回でいうと僕にとっては前者が清澄、後者が潮(うしお)だったんです。清澄に関しては、佇まいだけで清澄だ! ってわかるほど全身で体現されていたし、演奏シーンも素晴らしかった。そもそも清澄を演じる川西さんは、作品の舞台とほど近いご出身であったり、ご自身も作曲をされているとか、ルーツやパーソナリティに清澄を演じる必然性があったんです。
▲原作の舞台は兵庫県神戸市、川西拓実さんは同じく兵庫県の高砂市出身。(単行本2巻10話)
一方で潮は、音楽と並んで映画化における最大の関心事でした。僕自身描くのに苦労したキャラクターで、いかにもその辺にいそうな子は描けるんですけど、漫画ってある種「こんなやついるかい!」を要求されるところもある。だから、当時は潮を“漫画らしくさせる”のにかなり頑張ったんです。だから、映画ではどうなるんだろう? と思っていたら、漫画とは違った解釈で、かつ風間監督と桜田(さくらだ)ひよりさんがすごいバランス感覚で潮を実現されていた。これが僕にとって漫画からの飛躍であり、実写として見られて嬉しかったところでした。漫画にはない魅力を引き出してもらって、僕も改めて潮が大好きになりましたね。
風間: はじめて原作を読んだとき、潮に興味を牽引されながら読んだ感覚がありました。無軌道な彼女にどこか期待感を持って読み進めていたんです。その期待感は、清澄に共鳴している自分の閉じた部分に潮が寄り添ってくれそう、といった不思議な感覚でした。何より、ひよりさんが演じるからこその潮にしたいと思っていたので、そう仰っていただけて嬉しいです。
▲潮の“漫画らしさ”の極致ともいえる、清澄の部屋のガラスを割るシーン。(単行本1巻1話)
―― 完結から5年後の世界を描いた特別読切 が掲載されていますが、読んでみてどんな感想を抱きましたか?
風間: いちファンとして、またみんなに再会できて嬉しい気持ちになりました。なかでも、航太郎の「どっかの誰かの生活に絡むんだよ、アジュールは」というセリフがすごく好きです。そういう存在になれたら良いなと思いながら映画『バジーノイズ』を作っていたので、親和性を感じてさらに嬉しくなりました。
むつき: 今回の主題は「アジュールがあれからどうしていたか、そして今どうしているか」でした。でも、あれから現実世界では5年も経っていて、一方原作の連載期間は僕の人生の中で2年にも満たない……だから、僕にとっては過去の自分という他人の作品を再解釈するような感覚に近かったです。当時の僕の理念とキャラクターの人生、この2つに誠実でいなければと。そして、この作品を愛してくださった読者さんのことを思いながら描きました。
――最後に、これから映画を観られる方に向けてメッセージをお願いします。
むつき: まずは読者さんに感謝です。映画『バジーノイズ』は、原作を愛してくれて映画も観たいと思ってくれている方も、風間監督の最新作を楽しみにされている方も、キャストのファンの方も……みなさんが劇場に行く価値のあるものになっています。これはけっこう偉業です。ぜひ劇場でご覧ください。
風間: 実は、学生時代に清澄のようなスタイルで音楽を作っている友人がいたんです。なんで音楽を作っているの? と聞いたら「自分が眠るための音楽を作ってる」と言っていたんです。心地良くて、緩やかな音楽で、僕も分けてもらってよく聴いていました。潮のように、その音楽に救われたこともあったと思います。映画『バジーノイズ』もそういう存在になれたら良いなと思っていて。何か不安を抱えていたり、眠れない夜を過ごしている誰かに、この映画が寄り添えたら良いなと思います。
Q.清澄と自分が似ていると感じるところは?
むつき
イコール僕とは思いませんが、いつの間にか清澄に影響されてミニマリストになったり、洋服がモノトーンになっていきました。清澄の考えそのものが、僕のスタンスになっていく。逆輸入のような感覚です。
風間
(偶然にもペアルック!? な互いの服装を見ながら)洋服が近くなっていく感覚、わかります。今回清澄を撮っていく中で、僕自身が彼に近付いていきました。僕の場合、自分とキャラクターが感覚的に繋がらないと撮れないんですよ。
Q.クリエイターとしてのお互いの印象は?
風間→むつき
人との出会いの先に生まれる“ノイズ”をちゃんと見つめる人。でも、そのノイズを切り離すことなく、最後には抱きしめてくれる温かい人だなと思います。
むつき→風間
架空の世界を、現実社会のとある誰かの人生に昇華するという手腕がとてつもない。あと、僕からすると眩しい作風です。僕が婉曲表現を選択してしまうようなところを、真正面から切り取られてるなって感じるシーンがたくさんあります。
MUTSUKI JUN
1992年生まれ、兵庫県出身。2015年漫画家デビュー。2018年より「週刊スピリッツ」で『バジーノイズ』を連載。2022年より「オリジナル増刊」にて『ホロウフィッシュ』を連載中。
KAZAMA HIROKI
1991年生まれ、山形県出身。株式会社AOI Pro.所属。2019年公開の映画『チア男子!!』で長編デビュー。代表作に『silent』『チェリまほ』『うきわ』など。
実写映画『バジーノイズ』 5/3(金・祝)公開!!
清澄 役:川西拓実(JO1)
潮 役:桜田ひより
最旬W主演キャストが5月2日発売の「週刊スピリッツ」表紙・巻頭グラビアに登場!!
本編の5年後を描いたスピンオフ読切も掲載中!
『バジーノイズ』第1話はこちらから
『ホロウフィッシュ』最新4巻4/30頃発売!!(「オリジナル増刊」にて好評連載中)
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