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ビッコミさんの作品:スペリオール ドキュメントコミック大賞 結果発表!!

想像を超えた“あなただけのリアル”を描いた作品を募集した「スペリオール ドキュメントコミック大賞」。ノンフィクション作家・石井光太氏、漫画家・押見修造氏、[街録Ch]ディレクター・三谷三四郎氏の3名の審査員とスペリオール編集部による厳正な審査の結果、応募総数70本の中から選ばれたのは、この3作品となります。
受賞おめでとうございます!!

 

名前のない病気 
宮川サトシ
大賞100万円+連載確約

東京でエッセイ漫画家として妻と子供と暮らしている主人公には、これまで作中に一度も登場させたことのない30年もの引きこもり生活を送る兄がいる。“名前のない病気”に振り回されることで、幸せだったはずの家族は崩れていった…。家族とは何か? 幸せとは何か? 独特の筆致で問いかける衝撃作。

 

ある新米戦場ジャーナリストの1年 
五十嵐哲郎
入選50万円

長年勤めていたNHKを辞めて、戦地ウクライナに旅立ったイガラシ。「戦争とは何か?」という疑問への答えを求めて、激戦地の奥へ奥へと突き進む主人公の1年にわたる取材記。

 

暴力病院と搾取クリニック
水谷 緑
佳作30万円

暴力によって患者を支配している病院、治療費という名目で行き場のない患者から搾取しているクリニック…。長期間、取材を重ねてきた著者による精神科の裏側を描く意欲作。

 

■編集長総評
「ドキュメントコミック」の名を冠した賞は例がなく、小誌にとっても初の試みでしたが、そこに可能性を感じ、ご応募いただいた皆様に深く感謝申し上げます。

「ドキュメント」と銘打ったことで、物語のための物語ではなく、作者が本当に描きたいもの、描かずにはいられないものがストレートに表現された作品、つまり表現の根源に触れる力作揃いでした。本来は甲乙つけるものではないのかもしれませんが、それでも評価を分けたのは自分にせよ他者にせよ、どこまで人間に迫れたか、迫れそうかという点にあったと思います。

大賞受賞の宮川サトシさんはこれまで様々な作品を世に出されていますが、宮川さんが「唯一、描かなかったこと」であり「描かなければ人生終われないこと」でもあるという、一人の作家の根本に関わる作品を投稿していただきました。そして、それを見事に選考していただいた審査員の皆様の慧眼に心から敬意を表します。

多様さは、漫画の武器です。通常の漫画の賞にはない作品が集まり、漫画の可能性を再認識し、視野を広げることができました。ありがとうございました。

 

大賞受賞作「名前のない病気」は2024年夏、スペリオール本誌にて連載開始予定! ご期待ください!!

 

「名前のない病気」宮川サトシ 大賞受賞記念インタビュー

 

「今もう、これを描かずには人生終われないという感じです。」

――大賞おめでとうございます! 受賞の知らせはどこで受けましたか?

連載中の作品の最終回の原稿を描いている最中に、編集部から電話があって。大賞だと聞いた時は驚きと喜びが襲ってきたのですが、〆切がヤバかったので(笑)、「また後で…」といったん電話を切らせてもらいました。応募作は、自分の人生が深く関わっている話だったので、それが認められたことは本当に嬉しかったです。

――宮川さんは今回の賞になぜ応募しようと思われたのでしょうか?

編集部の方と別のエッセイ漫画の企画を練っていたんですが、打ち合わせの時に賞のことを教えてもらったんです。僕はもともとドキュメンタリーが好きで、それこそテレビ番組の「情熱大陸」に出たいという気持ちだけで『情熱大陸への執拗な情熱』という漫画を描いたこともあります(笑)。

これまで母のことや子育てのことを描いてきましたが、ずっと表に出せず自分の奥底に沈めてきたことがあったので、いよいよそれを出す時が来たのかと感じて、応募してみようと思いました。

――触れずにいた過去を描くのは、相当の覚悟が必要だったのでは?

そうですね…。これまで意識的に避けてきて、なんなら隠すように漫画を描いてきたことを応募作の中に詰め込んでいるわけなので…。

幼い頃からずっと友達や先生にも隠しながら生きてきて、漫画家になってからも、ずっとお腹の中に鉛玉がつっかえているような感覚があったので、いつの日か描かなければという思いを抱えていました。ただ、所帯を構えて子どももいるので、この話を漫画としてどこまで表現していいのかを悩んでいるところも正直あります。

――応募作は、これまでのエッセイ漫画よりも絵柄がリアルに感じます。

作中にエッセイ漫画を描いている描写があるので、絵柄を変えることでデフォルメされたエッセイ漫画との対比が生まれると思ったんです。自分のことを可愛いキャラクターとして描いている男が、じつは腹の中に真っ黒な鉛玉を抱えているというギャップを表現したいという狙いはありますね。

僕以外の人に作画をしてもらったほうが良いのではと考えたこともありましたが、これは自分で全部背負う覚悟がなければ作ってはいけない作品だと思うので、今は下手でもいいから自分ですべて描くべきなんだと思っています。

――この作品をこれからどんなふうに描きたいと思っていますか?

大賞の知らせを受けて、実家近くに住む親族に電話をしたんです。この話を描くつもりだと伝えたら、「じつはお前の知らなかった話が一杯あるんだよ」と言われて。大賞にならなければ知らずに終わっていた話がたくさん出てきたんですよね…。だからもう、これを描かずには人生終われないという感じになっていて。この漫画を描き始めたことで自分自身が変わっていく様を現在進行形で描いていくことになるのかもしれませんね。

――そこまで自分の過去を晒す話を描きたいと思ったのはなぜでしょう。

究極的には自分のエゴなんだと思います。どんな辛い出来事でも、僕は自分が見てきたものを面白いと思っているので、それを描いたらどんな漫画になるんだろうという好奇心が強いんです。

漫画家としては描きたいシーンが先にあって物語を描き始めるタイプなので、「あの思い出の場面を絵にしたい」とか、「あの時の気持ちを言葉にしたい」と思ったら、それを描かずに墓場まで持っていくのがもったいないと感じてしまうんです。

――読者には、これから始まる連載をどう読んでもらいたいですか?

僕のこと、嫌いにならないで欲しいなって(笑)。本音を言うと、ともかく読者には面白がって読んで欲しいんです。その結果、憐れんでくれてもいいけど、生きるってこういうことじゃないの、みたいな感じが伝わればいいなって。誰にでも隠しておきたいことはあるだろうし、こういう暗い部分も含めての人生なので、読み手に何かしら共感してもらえたら本望ですね。

 

PROFILE 1978年生まれ。2012年漫画家を志して、上京。2013年デビュー。代表作に『母を亡くした時、僕は遺骨を食べたいと思った。』『宇宙戦艦ティラミス』(原作担当)。育児エッセイ漫画や様々な漫画原作も手がけている。

 

>>ドキュメントコミック大賞 審査会レポートを読む

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