青色巨星から超新星へ、星の光は受け継がれーー
ーージャズとヒップホップ。
漫画で音楽を描く2人だが、実は薄場氏は新人時代に入選した「小学館 新人コミック大賞」での石塚氏からの講評をずっと心の支えにしていたようで…!?
「いつかお礼を伝えたい」と薄場氏が背中を追い続けた石塚氏との初対談をお見逃しなく。
石塚真一
1971年、茨城県生まれ。漫画家。『This First Step―あなたの来た道を知らない―』で第49回小学館 新人コミック大賞〈一般部門〉で入選。同作でデビュー。『岳』で2008年に第1回マンガ大賞ほか、『BLUE GIANT』で第20回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞ほか受賞多数。現在、ビッグコミックにて『BLUE GIANT』シリーズ第4作となる『BLUE GIANT MOMENTUM』を連載中。
薄場 圭
1998年、大阪府生まれ。漫画家。『飛べない鳥達』で第84回小学館 新人コミック大賞<青年部門>にて佳作を受賞。「月刊!スピリッツ」2020年3月号にて『君の背に青を想う。』でデビュー。現在、週刊ビッグコミックスピリッツにて『スーパースターを唄って。』を連載中。
(石塚) やったねー!! 単行本出たじゃん!! ホントに凄いこと!!(薄場氏と握手しながら)僕は新人コミック大賞の審査員をやらせてもらった時に薄場さんの『飛べない鳥達』の講評をしただけで…。特別何かをしたわけじゃないんだけど「夢、叶ったり!」って感じで自分のことのように嬉しいです!!
(薄場) それこそ僕は石塚先生からの講評を支えにしてずっとやってきました。他の先生方から厳しいコメントをいただくなか、石塚先生だけがめっちゃ褒めてくれて。『岳』も『BLUE GIANT』も大好きだったから「あの石塚先生が!?」ってすごく嬉しかったんです。だから、いつか直接お会いしてお礼を伝えようと。それを目標の一つにしてやってきたので本日はお会いできて本当に光栄です。
(石塚) 今回、対談するにあたって改めて『スーパースターを唄って。』を読み直したんだけど、『飛べない鳥達』の時から変わってないね。人や物事を捉える視点がそのまま。もちろん変化しているところもあるけれど、性根の部分は変わっていないと思う。『飛べない鳥達』で特に印象的だったのが、この見開きで描かれている鳥のシーン。すごく不思議な絵なんだけど、何にも囚われてなくて勢いがある。それでいて漫画としても成立していて…もうジャズだね!
(石塚) この作品では、人間にどんなことが起きようが、鳥は鳥で勝手に生きているんですよね。なんだか、どうせ生きていかなければならない者たちの強い生命力みたいなものを感じます。どうしたらこんな作品が描けるんだろう? とずっと思っていて。だから今日は薄場さんがどうやって漫画を描いているのか知りたいんだよね。
2人がずっと心の支えにしてきた「新人コミック大賞」のとある言葉
(薄場) ずっと「人間を描く」というのを大切にして描いてきたのですが、新人コミック大賞の時に石塚先生が「キャラクターに作為を感じさせない」と評価してくださって。自分が大切にしてきたものを石塚先生が審査ポイントで拾ってくれたから、これだけは絶対に離さないようにしようと思ってやってきました。
(石塚) 確かに薄場さんの作品はキャラ主体というか、1人1人しっかりと描いているよね。実は僕も昔、『This First Step―あなたの来た道を知らない―』で新人コミック大賞に入選したとき、名だたる先生方から「もっと構成を勉強したほうが良い」って厳しいコメントをもらったんだけど、かわぐちかいじ先生だけが「こういうのが漫画だよな」と言ってくれて。それがすごく嬉しくて、その言葉をギュッと心に持ち続けて描いていました。かわぐち先生がそう言ってたんだからいけるぞ!って。
(薄場) まさに僕もそうです。「キャラクターに作為を感じさせない」を自分の柱にして描き続けてきました。
(石塚) 作為がないから、良い意味でキャラクターの次の一手が全く見えない。それは読者からすると一番面白い状態なんですよね。『スーパースターを唄って。』はどのキャラクターも本当に魅力的なんだけど、特に桜子ちゃんは本当に力強くてかっこいいなと思います。
(石塚) 一番好きなのが「お米を残すと目が潰れるよ」っていうシーン。これは守るべきルールで、このルールが雪人やメイジのような子供たちに安心感を与えていると思うんです。逆にこれが無くなった時の恐怖感は相当なもの。だから、みんな必死にこの生活を守ろうとする。特に1人で一生懸命守っている桜子ちゃんを見ていると心にくるものがあります。
悪者は描かない、盛り上げるシーンは無音!?
『BLUE GIANT』から受けた影響
(石塚) あと、どのキャラクターにも薄場さんならではの“人の見方”がすごく出ている気がするんです。例えば、作中には芦屋や塚本のようにゾッとするくらい悪い人たちが出てくるけど、彼らは単なる悪者ではなく“もう戻れない人たち”で。読み進めていくと、彼らにどうしようもない哀しさを覚える時がある。本当に色々なことを考えさせられるんだよね。
(薄場) 悪者の描き方は石塚先生の影響が大きいです。先生の作品には悪者が出てこないじゃないですか? 例えば『BLUE GIANT』で演奏している大に「うるせえ!」って怒号を飛ばすおじさんは一見すると悪者に見えるかもしれない。でも、作中で彼の背景がしっかり描かれているから、そりゃ大のあの熱量の演奏を聴いたらそうなるよなって。だから、あのおじさんは悪者じゃなくて、本当にただ「うるさい」と思っただけの人なんです。
(薄場) 嫌な描き方もできたはずなのに石塚先生はそれをしない。僕の作品には、ある意味悪者はたくさん出てきますが、人間性が見えない舞台装置的な悪者は描きません。それは石塚先生の『BLUE GIANT』の影響です。
(石塚) それは光栄だな。漫画ってなんでもできるイメージがあるじゃないですか? でも、僕は漫画を描けば描くほど、やっぱり人しか描けないって思うんです。薄場さんも僕と同じように、人を描くことに徹しているような気がする。だから、作品を読んでいると「やった!」って嬉しくなりますね。
(薄場) あと音楽描写も『BLUE GIANT』の影響を受けています。『BLUE GIANT』って、一番盛り上がるシーンでは無音になるじゃないですか? だから、僕も盛り上がる直前まではリズムに乗る言葉とか色々描いているんですが、一番盛り上がるシーンでは無音にしているんです。
『BLUE GIANT』シリーズ
主人公・宮本 大が、世界一のジャズプレイヤーを目指して真摯に進み続けるジャズ成長物語。現在ビッグコミックにて連載中のシリーズ第4作『BLUE GIANT MOMENTUM』では、大がついに聖地にして最激戦区・ニューヨークに到達。仲間達と共にJAZZの頂点を目指す!シリーズ累計1250万部突破!最新コミックス2巻絶賛発売中!
(石塚) 無音だけど聴こえるんですよね、感情が。でも、薄場さんの場合は絵自体がもう音楽っぽいですよね。涙の粒とかもすごくデカい時があって、音のボリュームを感じると言うか、もう全てが音楽なんだよね。
「人間が好き」音楽漫画を描く2人の原点
(石塚) そういえば、薄場さんって子供の頃はどんな感じだったの?
(薄場) 幼い頃から人の顔色をうかがっていましたね。例えば、中学生の時にいわゆるヤンキーみたいなクラスメイトがいて、優等生たちは授業をサボったり、遊んでばかりの彼らを馬鹿にするんです。でも、ある日僕がヤンキーに「なんでそんなことをするの?」って聞いたら、中学を卒業したら働けって親から言われていると。卒業したら、地元の先輩たちが務める建設現場でしごかれて、毎日働く日々が始まる。はしゃげるのは今の時期だけだから、はしゃいでるだけ! と言われたんです。それを聞いて、彼はすごく達観していると思ったんですよ。人には色々な面があるんだと感じましたし、その経験からか、漫画でヤンキーが舞台装置的な悪者として扱われていたりすると違和感を覚えます。
(石塚) 周囲の人たちに対して、常に「どうしてだろう?」と思っている子供だったんだね。それに、人の顔色をうかがうことってあるよね。だって、生きていくということは、みんな違う文化を持っていて、そのなかで一緒の電車に乗っているみたいな話だから。でも、そうやって培われたから、薄場さんの人の見方ってどこか温かいんですね。塚本や芦屋も、どのキャラも絶対に切り捨てないじゃないですか。
(薄場) 人間臭いと言うか、野暮ったい描き方だなと思うんですけど…。逆に石塚先生が描く人間ってすごく粋ですよね。
(石塚) ちょっとカッコつけすぎだよな(笑)。でも、僕が人を描くときは常に「もう一個先を見たい」と思っているかも。例えば、中学生が満員電車で座っていたらおばあさんがやってくる。すくっと立っておばあさんに席を譲ったら「ありがとう」と言われる…。そんな漫画があったとしたら、僕はそれでは済まないタイプ。おばあさんが電車から降りると中学生はまた座るんだけど、そこに再び違うおばあさんがやってくると。2回目まではスムーズに席を譲るけど、3回目では出来なくなってしまう! みたいな。本当はすごく優しい子なのに、なぜか3回目では席を譲れない切なさというか、人間の底を描きたいんですよね。
(薄場) 僕がその話を描くとしたら、駅で降りたように見せかけて席を譲って、実は隣の車両に移動しているっていう奴を登場させるかも(笑)。
(石塚) いそう! 視点がリアルですよね。…やっぱり、薄場さんってすごい人間が好きだよね。
(薄場) 好きですね。
(石塚) それが聞きたかった! 僕も人間がすごく好きです。人には色々な面があるからそれゆえに悩むこともありますが、実はそこにドラマがあるんだと思います。ジャズ、ヒップホップと、僕たちは音楽を描いているけれど結局のところ音は鳴っていないからね。最終的には人間の心、感情を描き続けなくちゃいけない…。それがすごく難しいところではあるんですけど、お互い頑張っていきましょう。ちなみに体調は大丈夫? 忙しいでしょ?
(薄場) 徐々に腰が痛くなり始めました(笑)。
(石塚) そうなんだ。僕はこまめに運動をするタイプで、今はリフティングにハマっています。5分以内に100回達成を目標にしていて、今は70回くらいまでいけるようになりました。
(薄場) すごい! 僕も運動自体は好きなんですけど、習慣がなくて。
(石塚) 実は今日、薄場さんにお土産を持ってきたんだよ。はい、サッカーボール! いつかリフティング勝負しよう!
(薄場) ありがとうございます!
石塚氏も審査員を務める!「第95回 小学館 新人コミック大賞」絶賛作品募集中!
石塚氏は第49回〈一般部門〉にて『This First Step―あなたの来た道を知らない―』で入選。2002年に同作でデビュー。薄場氏は2019年に第84回〈青年部門〉にて佳作を受賞、2020年には『君の背に青を想う。』で「月刊!スピリッツ」デビューをしております。プロ作家を目指すみなさんのご応募をお待ちしております!
[スーパースターを唄って。]❶〜❸巻
定価/各770円(税込)・発行/小学館
[BLUE GIANT MOMENTUM]❶〜❷巻
定価/各968円(税込)・発行/小学館
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インタビュー/ちゃんめい
撮影/塩原 洋
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