5158569 3 3 false O2AQccAAjr2vicTPtDrZnHgFTN3nPc5O 832c1ecf8bbd9e62fbc3093da81ecfd9 『生皮 あるセクシャルハラスメントの光景』小説家・井上荒野×漫画家・粟森きち対談 取材・ライティング/川俣綾加 0 0 10 false
ビッコミさんの作品:『生皮 あるセクシャルハラスメントの光景』小説家・井上荒野×漫画家・粟森きち対談 取材・ライティング/川俣綾加


彼はなぜそれをしたのか? 彼女はなぜ長い時を経て告発しようと思ったのか?
小説講座の人気男性講師が、受講生の女性からセクシャルハラスメントの告発を受けたことから始まる小説『生皮 あるセクシャルハラスメントの光景』。取り巻く人々の視点ごとに、何を思いどう行動したかを描き、その視点ごとの立場を読者に疑似体験をさせてくれる。

この日、初めて対面する作者の井上荒野氏と、コミカライズを担当する漫画家・粟森きち氏の対談からは、書き手自身もまた「なぜ?」を自らに投げかけながら執筆したことが伺えた。

 

小説講座の講師・月島がメディアで取り上げられるようになった。それが咲歩が心に閉じ込めていた感情を鮮烈に呼び戻す。

 

矛盾した二面性があるのはなぜ?

──『生皮 あるセクシャルハラスメントの光景』の執筆にあたり、井上さんの中ではどういった思いがあったのでしょうか。

井上荒野(以下、井上): 小説を書き始める1年ほど前、2018年頃にフォトジャーナリストの男性から性暴力の被害を受けたと、彼が発行する写真誌を一緒につくっていた複数の女性スタッフが告発したことが話題になりました。「ひどいことをするな」と感じたのと同時に、その男性はフォトジャーナリストとしてはすばらしい仕事ぶりで、そこから鑑みるに人権意識の高い人物でした。一方で、並行して女性の人権を踏みにじっていた。これはどうしてだろうと思ったんですよね。

ひとりの人間の中に矛盾した二面性がある。もしかしたら三面も四面もあるかもしれない。それが共存できるのが本人の中ではどういった整合性になっているのか、矛盾に気づかないのか、謎がたくさん浮かんだというのが、セクハラ問題や性暴力の小説を書き始めた一番大きな動機です。

“現在”から7年前、月島の小説講座を受講していた咲歩。月島から個人的に呼び出されることも。

 

──わからなさが小説を書く理由になった。

井上: どんな小説を書く時も私は「なぜ?」から始まります。その「なぜ?」に対する答えはきっと無数にあるし、正解かどうかもわからないですが、小説を書くことを通して私なりの答えを出していきます。答えが出ないとしても、答えがある場所に近づいていけるんじゃないか? 小説を書くことで考えたい気持ちがあります。だからセクハラ問題に関しても『生皮』の読者の数だけ答えがあるはずです。

 

──章立てが登場人物ごとにわかれているのも「それぞれの答え」を見せてくれていますよね。被害を受けた柴田咲歩、咲歩の夫・柴田俊、小説講座の講師・月島光一、光一の妻である夕里、光一の娘・遥、受講生の加納笑子、まだ独身で小説講座を受けていた頃の九重咲歩など、被害者と加害者だけでなく、それを取り巻く人々が登場します。

過去の出来事を知った咲歩の夫・俊がSNSで目にしたのは……。


井上: そうです。それとセクハラの告発に対して必ず中傷する人も出てきますよね。『生皮』だと男子大学生の三枝真人がそういった行動をとっています。性暴力問題を考えていく上でそこも「なぜ?」でした。中傷することで本人にとって何が良くなるの? 何のためにやるの? と疑問が浮かびました。

理由について「こうだ」と断定的なことは言えませんが、中傷する側の行動原理もそれぞれあると思うし、それも小説を執筆しながら考えてみたかったです。

 

断罪する物語にはしない

小説について語る月島。

 

──「なぜ?」を突きつめていく中で「絶対にわからない」と思ってしまうことはないのでしょうか。例えば「自分から特別扱いされるのがどれほど幸運か」と絶対的な自分を持つ月島光一の価値観。そういう人がいるとわかっても理屈をひもとくのは難しかったです。

井上: “セクハラする種族”はいないんですよ。つまり悪人という種族はいない。私たちみんなのどこかしらに月島的な悪の要素があり、私たちの延長線上にする・しないの分岐点があると思うんです。セクハラを告発する女性たちの要素も、中傷する人の要素も、どの要素も自分に通じるものがあると感じながら書いていました。

 

──確かに「自分は絶対にしない」とは言えない。誰かにとっての加害的な人間にもなりえます。

井上: 私自身はセクハラで嫌な目に遭った記憶はありません。でも『生皮』を書くにあたり、セクハラ被害者の手記などを読むうち、自分が積極的にセクハラに加担したことはないと思いたい、でも絶対にそうだっただろうか?そういう疑問も浮かびました。

『生皮』にも出てきた場面で「みんなで初体験の話をしゃべろう」と、力関係が上の作家や編集者が飲み会の場で言い出し、立場の弱い若い編集者が追い詰められる。同様の場面で、女性作家である私がただ笑っていたら、立場が弱い人は断れない。セクハラを醸造する場とそこにいる人々も必ず書きたかったことです。

もうひとつは、セクハラは悪いことだとわかりきってるじゃないですか。だから「セクハラは悪い」と書いてもしょうがない。セクハラを断罪する話を書いても、私としては小説的興奮はしないです。

セクハラの告発を娘の遥から厳しく問われる月島。何と答えるのか?

 

──勧善懲悪のような断罪はしないということですね。

井上: もちろん自分の中では断罪はしています。「セクハラした人は悪い。だからこんな風になったんだ」ってだけの小説にはしたくなかったです。「悪い」だけが書かれていると「なぜ?」からは遠ざかってしまいます。やっぱり行動原理や理屈について第一に考えたい。

例えば月島の言っていることや真人の行動に共感する人もいるかもしれない。「なぜ自分は彼らに共感したんだろう?」と考える足掛かりにしてくれたらいいし、『生皮』を読んで前は全く疑問に思わなかったことを「なぜ?」と考え始める。そういう風に読んでもらえると嬉しいです。

私の小説の基本姿勢として、メッセージを込めることはしたくないんです。「正しく生きろ」とか「悪いことをした人は罰を受ける」とか。読みながらも、読んだあとも、自分の中で色々と考えてくれたらそれが一番いいです。

 

苦しさを感じるからこそ描ける

──粟森さんが小説を読んだ感想を教えてください。

粟森きち(以下、粟森): 主人公の咲歩が月島から受けた行為のせいで自分の感情に対する主体性を失い、それを取り戻すお話だと受けとめました。全体的に生々しい描写が多かったです。月島は小説講座の他の受講生にとってはいい講師だけど、咲歩にとっては違った。講師としてのすばらしさ、自分が受けた性暴力の傷、その矛盾を抱えたまま長い期間を過ごしたせいで、周りの人のなんでもない行動に「被害を知られたのではないか」と怯えながら暮らしています。

咲歩が生きてきた世界の形が変わり、全てが自分を攻撃しているかのように見えている。咲歩が様々なものを失っていく過程が真正面から描かれているので、読みながらつらさや苦しさを感じましたが、でも苦しさを感じるほどの生々しい表現がすごくいいと思っています。

 

──コミカライズに際してその“苦しさ”はどう考えましたか?

粟森: うまく言えないのですが、作風的にも読者にいい意味での傷を残せる、苦しさのある漫画表現が向いていると自分では思っています。だから『生皮』もコミカライズとしては自分の漫画表現とマッチしている気がします。

 

──エンジョイする作品よりは考えさせる要素がある作品の方が向いている?

粟森: 人が傷つく表現がない小説をコミカライズすると、自分の中で他人事になってしまうのではという懸念があるんですよね。『生皮』はぐっと言葉を飲み込んでしまうような傷ついた場面がありました。全く他人事にならなかったです。

 

──気持ちを込めて漫画にできると感じたんですね。井上さんから粟森さんに何か要望はあったのでしょうか。

井上: 私の方からは特になかったですね。

粟森: 漫画家としては、小説の良さである現実感を保つようにしました。例えば恐怖や驚きのシーンで「キャーッ」みたいな装飾ありの漫画表現は、読み手に「これは創作だ」と前面に押し出してしまうので、漫画特有の記号化表現は使わないようにしました。井上さんに漫画を読んだ感想もぜひ聞きたいです。

井上: 小説が映画化されたりドラマ化されたりする時に、もちろん漫画と映画は違いますけど、映像だと説明のためにどうしても余計なセリフが追加されてしまうんですよね。「こんなこと口に出して言わないよ」と感じる構成になってしまいがち。脚本の段階で指摘しますが、それは映像表現の難しいところですね。

 

──モノローグひとつとっても、漫画は文字で書けますが、映像だとどうしても違う表現になってしまいますね。

井上: 粟森さんのコミカライズではそれらを過不足なく表現していただいていると思っています。粟森さんは取捨選択がうまい方で、漫画になった時に小説よりもわかりやすくしたり強調したり、少しだけ設定や状況を変えたりして、それでいて小説の読者にも違和感がないように描いてくれました。毎話ネームを拝見した時も、もう文句のつけようのない形になっているから「全然いいよ!」と。本当にありがとうございます。

粟森: よかった〜……いや本当に、よかったです。コミカライズは初めてなんです。小説の表現が漫画に落とし込めない部分もあって、そこが井上さんにとって大切な部分だったら? と考えながら可能な限り漫画向けに変えたりと、悩みながら描いたところもあります。そう言っていただけてよかったです、本当に。

井上: 担当編集さんともいつも「いいね」と話してますよ。

粟森: 今夜はもう安心して眠れます。よかった…!

井上: 変更する箇所も事前にちゃんと確認してくださるし、漫画向けに変えることでわかりやすい表現になっています。丁寧に描いているのも、見れば伝わってきます。

粟森: ありがとうございます。

 

月島の容姿は渋おじ俳優がモデル

井上: 私からもひとつ聞きたいことがあるんですが、いいですか?

──お願いします。

 

井上: 月島の外見、特に顔はどういう風に決めましたか? 粟森さんが描いてくれた月島がすごくぴったりだったから、頭に浮かべる月島の姿は、私の中で完全にこの見た目になっています。

粟森: 小説を読んだあとの「月島は嫌な男」の気持ちが強すぎるあまり、最初にコミカライズ担当編集者に出したキャラクターデザイン案は修正がかかりました。「嫌な男」のイメージが読者にも真っ先に印象づいてしまう見た目だったからです。実際に活躍されている渋おじな俳優を挙げていただいて参考にしましたね。小説でも、娘の遥と同じ整った顔立ちで、小説講座の女性からもちやほやされる「渋いインテリ」とあったので、それに寄せるようにしました。

井上: 月島の容姿はすごくいいですね。いかにも「エロおやじです」みたいな見た目だったら違う話になっちゃう。パッと見の素敵な紳士っぽさと女性への扱いの差の二面性が、粟森さんが描いてくれた月島のおかげでより生きたと思います。

コミカライズ担当編集・豊田: こちらが粟森さんが最初に出してくれた月島のキャラクターデザインです。

 

──すごくヒールっぽい見た目ですね。かなり怖め。

井上: 全然違う! こんな感じだったんですね。

粟森: 『生皮』を読んだ私が、いかに月島を敵視していたのがわかるキャラクターになってしまっています。

豊田: 僕からはもっとインテリ系にするのと、見た目の年齢を下げてもらうようお願いしました。

 

──ここからガラッと変えて今の月島になったんですね。

井上: 月島だけじゃなく小荒間もイメージにぴったりでした。

 

粟森: トンボ眼鏡、赤い唇、民族調のワンピースなど具体的な描写があったからすぐにイメージできました。遥もそうですね。最初に出したキャラクターデザインと変わってません。

 

──咲歩はいかがでしたか?

粟森: たぶん派手なタイプじゃない、身の回りにいるような飾り気のない女性で文学少女な面も持ち合わせている。かつ容姿が整っている。俳優でいうと有村架純みたいな雰囲気かなと思いました。咲歩のイメージは少し難しかったです。

 

井上: 小説では見た目の特徴があまり出ないようにしました。「私はひどい目に遭ってない」と自分に嘘をついてた期間が長いし、その雰囲気をビジュアルに落とし込むのは難しかったと思います。

粟森: そうですね。顔立ちよりも服装からイメージを膨らませました。きっとスカートを履くには抵抗があるし、自転車に乗るシーンもあったからジーンズを履いてそうだとか、そうした欠片を小説の中から集めました。

たとえば夕里は家庭に入って保守的。外の出来事を見ないようにすることで家庭内の均衡を保っている女性。対して咲歩はイメージは浮かびつつも決まるのに時間がかかりました。咲歩は生き方が一貫してなくて、途中で月島に心を折られたことから夕里と同様に内心が揺らいでいるので、デザインにもその迷いや複雑さを表現する必要があって、苦労しました。

 

井上: 登場人物の表情も描くのが難しかったんじゃないですか? ああいう迷っている人の顔って、どんな風にも描けるから。

粟森: それはありますね。表情も、感情を外側に出せない。傷つけられてるから感情を表現することに恐怖感があるはず。

 

──わかりやすい感情表現をせずに感情を伝える必要があった。

粟森: そこは難しさを感じつつも、欠点だとこれまで思っていた、派手な感情表現ができない私の作風がいい方向に働いてくれました。作品とマッチしたと思います。

 

性的加害シーンは絶対にぼかさない

──漫画として描く上で粟森さんが特に苦労された部分はどこでしょうか。

粟森: 咲歩が月島にホテルに連れ込まれる第三話と、小荒間と月島が取材旅行に行く第七話です。性的加害の描写が直接的に描かれるシーンは、2人が感じる恐怖や苦しい気持ちがこちらにも入ってきて、描いてて苦しかったですね。

井上: 小説を書く時も、そのシーンは絶対にぼかすまいと決めていました。「これは本当にひどいことなんだ」と伝えなければ、と。「セーターをたくし上げてブラジャーの中から乳首を摘み出す」など、一挙一動を具体的に書き出しています。

粟森: その気概は読んでて伝わってきました。だから私も逃げちゃだめだと。苦しい、逃げたい。それでも描かなきゃいけない、逃げちゃいけない場面でした。

小説の話をするために呼び出された咲歩だが……。

 

──表現としては、ホテルに入り驚いた表情を描いて、次のシーンではもう朝という選択肢もあります。でもそうしない強い気持ちがあった。

井上: 本当に気持ち悪くて嫌なことなんだと伝える必要があったんです。

 

──女性が読めばそれはすぐに伝わるし議論するまでもなくわかる一方で、男性がどう感じるのか気になるところですね。小説を発表後、男性読者からはどんな反響がありましたか?

井上: カツセマサヒコさんが『生皮』を読んですごく色々なことを考えてくださったようで、インスパイアを受けて小説『ブルーマリッジ』を書いたと本を送ってくださいました。男性が無意識に女性を傷つけていることをテーマにしてて、若い世代の男性の方が問題を受けとめて考えてくれているのかもと思いましたね。

 

『ブルーマリッジ』カツセマサヒコ(新潮社)
https://ebook.shinchosha.co.jp/book/E060211/

 

「私たちの延長線上にある」

──『生皮』を書く/描く前と後で、おふたりの中で変化したものはありますか?

井上: 自分ごとだという意識です。私は昭和を生きてきた人間だし、この仕事を始めて30年経ちます。昔をふり返る中で「私はセクハラに加担してなかった」と断言できないのが、書いていくうちにわかっていくわけです。前よりも自覚的になりましたね。

粟森: お笑い芸人が告発された件がコミカライズと同時期に報じられ、月島と重なる部分があると感じました。権力があって、それを振りかざすことに無自覚。最初に『生皮』を読んだ時は月島の考えていることが理解できなかったですが、ニュースで報じられる告発と、小説の中の月島のことを考えていたら、井上さんのおっしゃる「私たちの延長線上にある」の意味がわかるようになりました。

井上さんの月島に対する考え方と私のそれは違うかもしれませんが、やはり自分の弱さが起因しているように思います。強い力を持っていると感じられないと不安になるから権力をふりかざす。

井上: 「向こうだって嫌がってなかったじゃん」「一緒に楽しんでたでしょ」と、どこまでが本当で、どこからが自分の思い込みだったか、本人もわからなくなってるんじゃないかな。

粟森: 被害者の女性が、ことが起きて何年も経ってから告発したのも『生皮』とつながってて、自分が受けた被害を理解して行動に移すのにとても時間がかかるものなんだと感じました。

井上: 「自分がそんなにひどい扱いを受けたなんて思いたくない」って気持ちもあると思うんですよね。それがどんどん耐えられなくなっていった。たくさんの人が「なぜ今頃?」と言うけれど、何年も経たないと言い出せないほど傷ついている。

 

──何年も経ってようやく告発できる人もいれば、そのまま気力も体力も奪われて言い出せない人もいそうですね。

井上: 『生皮』を読んだ人から「私も同じようなことがありました」と、あれはセクハラだったとやっと認めることができたと話す方もいました。そういうことですよね。

 

──昔なら告発した女性に対する中傷がほとんどを占めていたはず。告発に対するバッシングもまだまだ問題ですが、世の中が少しずつ変化しているとも感じます。

井上: 実名・顔出しで性暴力被害を訴えた伊藤詩織さんの件から空気が変わった気がします。また1人、また1人と声を上げる人が出てきました。もちろん言えない人を責めているわけじゃないです。言えなくて当然ですから。

月島の妻・夕里とは歳の差夫婦。そして夕里もまた、かつての小説講座の受講生だった。

 

──粟森さんの「私たちの延長線上にある」がわかるようになったというお話ですが、もう少しお聞きしてもいいですか。

粟森: 私は夕里の気持ちがとても理解できるんですよ。私は子どももいないし、結婚してるわけじゃないんですけど、自分を守るために家庭内で起きていることから目をそらし、娘から図星を突かれてどうしようもない。しかも娘の容姿は自分よりも夫に似ているのもまた苦しいはず。私も一人っ子で娘だから、この家族に感情移入してしまいます。

井上: あの家は昭和の家庭のいち形態です。夫のしていることを妻が見て見ぬふりをしてやり過ごすのはよくありました。私が生まれ育った家も、父親が家庭の外で女性に対してやりたい放題で、母がそれを黙認してたから、通じるものがあります。

粟森: 小説はラストがありますが、その先の夕里と遥のことを想像すると大変ですよね。夕里がカウンセリングにつながるなり、知識を身につけるなりしたら、違う未来があるのかな。それでも月島の行いを理解するのに時間がかかるし、その間ずっと苦しむだろうなと暗い気持ちになります。がんばるしかないんですけどね。

咲歩の告発がもたらした衝撃は波紋となって家族へ、社会へ、大きく広がっていく。

 

──最後に、おふたりが『生皮』を通して届けたいものは?

井上: 勧善懲悪の物語として読まずに「なぜ?」「彼はなぜこうしたのだろう?」とたくさん考えながら読んでいただければと思います。

粟森: 『生皮』の魅力は、月島のような加害者側の視点も突き放さずに正面から描いていること。「こんなことする人なんて理解できないよね」じゃないことです。漫画は小説より読者層が若いので、SNSでの中傷のシーンなどリアルに想像できる方が多いはず。色々な立場の視点で読んでもらえると嬉しいです。

井上: 粟森さんとお話したのも初めてでしたね。どうもありがとうございました。

粟森: お話できて嬉しかったです。ありがとうございました!

 

 

著者プロフィール

井上荒野(いのうえあれの)
小説家。1989年「わたしのヌレエフ」で第1回フェミナ賞を受賞し、デビュー。2004年『
潤一 』(新潮文庫)で第11回島清恋愛文学賞、2008年『 切羽へ 』(新潮文庫)で第139回直木賞を受賞。主な著書に『あちらにいる鬼』(朝日文庫)『猛獣ども』(春陽堂書店)ほか多数。『生皮 あるセクシャルハラスメントの光景』は、朝日文庫より絶賛発売中。
粟森きち(あわもりきち)
漫画家。著作に『愛からは逃げられない』(集英社)など。現在、ビッコミにて『
生皮 あるセクシャルハラスメントの光景 』(原作: 井上荒野)を連載中。

面白かったら応援!

14日前