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ビッコミさんの作品:第92回 新人コミック大賞 青年部門 結果発表

第92回新人コミック大賞(青年部門)に、たくさんのご応募ありがとうございました!! 厳正な審査の結果、なんと今回は異例の大賞2作品、入選3作、佳作1作が選ばれました。受賞者の皆様おめでとうございます!!

該当誌
ビッグコミック
ビッグコミックオリジナル
ビッグコミックスペリオール
ビッグコミックスピリッツ
応募総数:82作
2次審査通過:20作
3次審査通過:9作

 

大賞 賞金200万円
[メダカの学校] 福岡ゆい 21歳・東京都

あらすじ
高校教師の深津先生は、ヨボヨボでお酒臭いし煙草くさい。でもなぜか生徒には慕われている。礼儀には厳しく曲がったことは怒鳴りつけてでも叱るが、そうじゃないことは強制しない。短い学生生活、思春期の一瞬間を先生と共に過ごした教え子たちとその後の物語。

◆浅野いにお氏◆
力作だと思います。老齢の教師を中心に複数の学生たちの悲喜交々が描かれており、学校という水槽から放流された生徒たちのその後にも軽く触れることで、明るい未来を感じさせる良い読後感の作品でした。絵に関して現状は線の強弱が少なく太さが均一で、大きい見せゴマほど絵が白くなる傾向があります。絵柄のクセが強いため読者を選ぶかもしれませんが、物語は万人に薦められる内容なので、絵のクセが「味」になっていけばより多くの読者を惹きつける作品が作れるようになるのではないでしょうか。

◆石塚真一氏◆
この作品には深みと広がりを感じました。人の感情を繊細に捉えて描くことで「絵」ではなく「人」になっています。空気感、雰囲気も絵から漂っています。拍手です。

◆太田垣康男氏◆
作者の理想か体験か、とにかく私もこんな先生と出会いたかったと思わせる儚くも美しい作品。学生時代という時間そのものを描く俯瞰した視点も独特。仙人の様な先生との一瞬の接点によって子供達の人生の流れが変わっていく様に感動する。

◆業田良家氏◆
ずっと心に残りそうな素敵なお話でした。深津先生のキャラクター造形が素晴らしい。生徒たちを、そして人間を人生を愛している深津先生の内面が静かに伝わってきて感動した。複数の生徒や同僚の先生たち、それぞれに個性と役まわりがごく自然に織り込まれて、実在する人物たちのように感じた。作者の観察眼は鋭いし視野が広いので様々なキャラクターを自在に創り出せるのだろう。話の最後も深津先生が残した「深津文庫」で締めたのもよかった。この先も深津先生の存在は未来の生徒たちに影響を与え続ける。たとえ私たちがうたかたの存在であっても。

◆こざき亜衣氏◆
短編におけるキャラクターの数としては明らかに多いのに、深津先生という傑出した象徴の周りに生きるまさにメダカのようなたくさんの生徒たちがどの子も本当に愛おしく、作者の人を見る眼差しの愛情深さに驚きました。やりたいことに対する演出も自覚的にベストを選んでいるように見えます。素晴らしい作品でした。

 

大賞 賞金200万円
[煙が目に染みる。] 安田翔哉 25歳・東京都

あらすじ
「紙巻き」煙草にこだわるサラリーマン・シンジ。2年前、彼の父親は若年性の認知症になり、シンジや母の顔も思い出せなくなってしまっていた。しかし、特定の煙草を吸っているときだけ認知症が治って...!? “煙草”を通し、家族の愛を描いた秀作。

◆浅野いにお氏◆
シリアスでシビアな話ではありますが、デフォルメの効いた可愛い絵柄との相乗効果で、より寂寥感漂う良い漫画でした。父親がどのタイミングで、どんなきっかけで手紙を書いたのか、そこのエクスキューズがあればもっと納得できる内容になったと思いますが、構成もわかりやすく、コマ割りもセリフも大きいので、総じて読みやすいです。僕の個人的な好みで言えば、もうちょっとだけ毒っ気を足してもいいかなと思いつつも、絵柄は完成されているので、今後は今回のような完成度の高い短編を継続的に描くことができれば、十分商業誌で活躍することができると思います。

◆石塚真一氏◆
心優しい哀愁あふれる作品です。三頭身で描かれたキャラ達の内面はリアルです。愛情がある絵柄の持つ力なのでしょうか、グッとくるし泣けます。次の人間ドラマに期待しています。

◆太田垣康男氏◆
記憶を無くした父親と母の死。大きな喪失感の中、それでも家族の記憶を大切に持って生きていこうとする主人公。柔らかな絵柄と作者の優しい人柄が滲み出る愛すべき秀作。

◆業田良家氏◆
認知症になったお父さんはたばこ「チェリー」を吸う時だけ記憶がよみがえる。チェリーは10年以上前に製造が中止されていて残りは手元にあと二箱しかない。このアイデアが素晴らしい。そしてお父さんはお母さんへ感謝の手紙を書くために残りのチェリーを全部吸ってしまう。お父さんのこの心情に泣けてしまう。最後の締めくくりにもうひと工夫、もうひとひねりができていたら完璧だった。それが残念。とはいえ漫画でしか表現できない話であり、絵柄もシンプルでユーモラス。私は大好きな作品だ。

◆こざき亜衣氏◆
泣いてしまいました。起きている事象はどれも悲しかったり寂しかったりとされることなのに、物事の捉え方、切り取り方がドライでユーモラスでかつあたたかく、得難い作家性だと思います。この作家さんなら特別でない日常も面白く描いてくれそうです。毎回楽しみにすると思います。

 

入選 賞金50万円
[スイッチスイッチ] 牛抱未練 20歳・栃木県

あらすじ
自分じゃない、何者かになりたい――漫画の主人公のような教師になりたかった男・山口。JKに馬鹿にされながら授業をする彼の現在の願いは、「女子高生になりたい」。そんな中、怪しい男にとあるスイッチを渡され…

◆浅野いにお氏◆
ありふれた題材ではありますが、丁寧な作りかつ何か所かは驚きもあり、素直に面白かったです。アクションと絵柄は今後に期待したいです。特に二人がぶつかる瞬間などは重要なシーンなので、省略せずにしっかり絵で表現できれば、印象的な場面として読者に記憶されると思います。

◆業田良家氏◆
ストーリーが分かりやすくまとまっており、面白かった。しかし、こんなによくできた商品が不採用だったのが少し不自然だ。この商品「スイッチスイッチ」に何か大きな欠点があれば、話がもっと深くなったかもしれない。主人公の二人が最後に成長した感じがする点も良い。

◆こざき亜衣氏◆
可愛らしい二人で、好感の持てる物語でした。全体的に読み手に意識が向いた作りなのが素晴らしいです。一方、読みやすくはあるものの、内容に対してページ数が多いと思いました。テンポを意識して展開を整理すると、更に読みやすく魅力的な作品になると思います。

 

入選 賞金50万円
[坂道に建つ家] 風上吹人 22歳・茨城県

あらすじ
“僕”は恋人のキョーコさんと共に、4年ぶりに生まれ育った町へと帰ることに。坂道の多いその町には、幼少期、両親と三人幸せだった日々と、その後の苦い記憶が眠っていた。永遠などないと知る彼は不安を覚えるが...。

◆浅野いにお氏◆
詩的な内容で序盤は引き込まれました。しかし、中盤以降も語りが多く、ストーリーにリアリティーと納得感はあれど面白みという点では弱いという印象です。不安定なバランスで成り立っている「坂道に建つ家」というキーワードはとても良いと感じたので、もっと不安定な人間関係を強調した過激な物語にしても良かったのではないでしょうか。

◆石塚真一氏◆
普遍的なテーマを真っ直ぐに描いています。キャラクターの表情も豊かで読みやすい。ストーリーが枝分かれするポイントであらぬ方向に進んでみても良いかもしれません。

◆太田垣康男氏◆
地味な題材ながら作者の高い画力で情感が伝わり、坂道の町という心象風景と相まって主人公の揺れる気持ちに共感できた。ここまで自在にカメラワークを操り、人物の自然な演技を付けられる新人も珍しい。間違いなく大成する逸材だろう。今後に期待する。

 

入選 賞金50万円
[Loveless Heartless] 西馬宗志 21歳・愛知県

あらすじ
ある日、ある街が爆撃されたーー日常に退屈を感じている女の子と、社会に絶望を感じている女の子。同じ街に住む女の子2人が出会う。とんでもないことが起きたにもかかわらず、動揺することがなかった彼女たちが、少しずつ心を通わせていき…

◆石塚真一氏◆
キャラクターが豊かに動いています。感情を持った人物が心からの言葉を言い合い、そして行動している。押しつけがましい感じが全くないのがこの作品の持ち味かと思います。作者の次なる人間ドラマ、楽しみです。

◆業田良家氏◆
冒頭から爆撃された住宅街のシーンから始まり話に引き込まれた。自宅が焼け母親も死んだかもしれないのに動揺ひとつ見せない主人公は、現代の絶望感をよく表している。カラッと乾いた絶望を抱えながらも生きていく人間の強さと生きていくしかない悲しさを同時に感じた。短いページ数でそのあたりはよく表されている。

◆こざき亜衣氏◆
この世界に対する絶望と、それでも希望や喜びを見いだそうとする人の強さ。世界観をあえて曖昧にした分そのテーマだけが浮き彫りになっており、短編として素晴らしい構成だと思いました。やや単調なので、ひとつだけでも象徴的な大ゴマが入るとより印象的な作品になると思いました。

 

佳作 賞金30万円
[詰襟の夢] 山崎幸信 17歳・神奈川県

あらすじ
主人公・内野は属さない。彼は「社会のはみ出し者」か、「誰にも理解されない孤独な英雄」か。夢想の中に生きる少年。ある日学校をサボったことで、彼の妄想は加速する――

◆太田垣康男氏◆
ヤバイ奴が現れた! まんま大友克洋の世界だが、あの天才の画風と狂気をここまで完璧に模写する猛者は土田世紀の登場以来だろう。息の詰まる様な日常を異常な描き込みと言葉の洪水で表現し、主人公の夢想も同時並行で描く事で混沌が加速する。何も出来ずに今日も終わる事の絶望感は青春そのもの! 恐ろしい才能を持った17歳だ!

◆業田良家氏◆
激しい妄想と熱情を原稿用紙にぶつけて描き殴ったような、凄みのある作品だ。17歳でこれだけ様々な物や人間を描けるのだから才能はある。編集者とよく話し合って自分に合ったテーマを見つけ、多くの読者を意識して作品を描いてください。

 

奨励金10万円

[愛憎] 時永保名 21歳・大阪府
[祝福の眼差し] 降原 36歳・東京都
[桐谷と夏野] 江口一 17歳・埼玉県

 

審査員総評

浅野いにお氏
今回の応募作全体の傾向でいうと派手さはないものの丁寧な作りの作品が多く、作画の優劣に関わらず、物語がしっかりと構成されていれば作品としての印象は良くなるということを再認識させられた回でした。しかしながら、学園生活を描いた作品が多いのはいつものことなのですが、とりわけ今回は学生の描かれ方が数十年前の漫画で描かれていた学校風景とあまり変わり映えがなく、現代的とは思えませんでした。なんでもかんでも今っぽくしろとは言いませんが、ある程度世相を反映していないと新人があえて新しく漫画を描く意義が薄れてしまいます。特に昨今世の中は大きく変わっていっている訳ですから、ある意味扱うべきネタはそこらじゅうに転がっています。それらをちゃんとピックアップして作品に盛り込めば、自ずと新規性の高い作品になるはずですし、自然と筆も進むはずです。これから漫画で勝負したいと思っているのならば、もっと野心的であってほしいと思いました。

石塚真一氏
1コマ1コマ描いて、悩んで、なんだか嫌になって、でもまた描いて、疲れて、それでもまた描いて…そうやってひとつの作品ができました。そんな自分を大いに讃えて褒めてください。私は、俺はやったんだ!! と。「できた自分」に大いに自信を持って、そして甘い見通しを持ってください。「次もイケんじゃね?」と。「次もデキるぞ」と。漫画を描く描かないの第一段階は気持ちだと思います。技術より気持ち。漫画を描く壁は総じて、というか必ず高くなると思います。行き止まりに感じることだってきっとあると思います。でも、また挑んでください。途切れ途切れ? OK!! 中断しながら? OKです!! できるよきっと!!

太田垣康男氏
近年の新人賞は豊作続きだ。作者の日常を見つめる視点の優しさや地に足の付いたリアリティーを描ける新人が増えているのは嬉しい限り。が、その反面、大法螺吹きのSFや壮大なファンタジー、エンタメ色の強い活劇が影を潜めているのが少々寂しい。片翼だけでは高く飛べない。プロ漫画家を目指す新人には日常感覚とエンタメの両翼を身に付けてさらに飛躍して欲しいと切に願う。

業田良家氏
今回は全体的に佳い作品が多かった。時代を反映しているのか、登場人物たちの人間関係に常に緊張感がみなぎっている。それがドラマツルギーの基本だともいえるけど、逆手に取って愛にあふれる人間関係も読んでみたい。漫画を創るという作業は自分の心の中を覗き込み、他人の心の中を想像しながら見つめるという作業でもあるのできついですが、その中にu埋もれた愛と希望をみつけてきてください。

こざき亜衣氏
どの作品もとても面白く、審査を忘れて楽しんでしまいました。ネームからはそれぞれ人生と真摯に向き合う独自の哲学が感じられ、こちらが襟を正される思いでした。改めて漫画は孤独なエンタメであると同時に、他者と自分の関係を再構築する有効な手段のひとつなのだと感じました。読ませていただいてありがとうございます。全然関係ないですが、喫煙率の低い世代の人たちの作品の中で紙のタバコが小道具として結構な頻度で出てきたのがなんだか興味深かったです。

面白かったら応援!

2023/12/27