第93回新人コミック大賞(青年部門)に、たくさんのご応募ありがとうございました!! 厳正な審査の結果、大賞1作、入選1作、佳作4作が選ばれました。
受賞者の皆様おめでとうございます!!
該当誌
ビッグコミック
ビッグコミックオリジナル
ビッグコミックスペリオール
ビッグコミックスピリッツ
応募総数:89作
2次審査通過:14作
3次審査通過:7作
大賞 賞金200万円
[コースロープ] かわじろう 30歳・神奈川県
STORY
泳ぐことが大好きなつぐみは、転校先の水泳部で代表選手に選ばれる。しかし皆の期待を背負ううちに、地元の川で友人とのびのび泳いでいた頃の気持ちを思い出せなくなってしまい...
■浅野いにお氏■
朴訥な絵柄でテンポも良く、ストレスなく読めるいい作品でした。もう少し主人公がプレッシャーに押しつぶされていく描写を加えるなど、多少意図的な「くどさ」や「トゲ」があれば、作品の奥行きが増すと思いました。
■石塚真一氏■
気持ち良い物語ですねぇ〜…グッとくる。説明のできない、得もいわれぬ感動をくれる作品です。絵も素晴らしい。水につかってる方の足の表現とか…好きだなあ〜。次の作品を楽しみにしてます。
■太田垣康男氏■
新人離れした完璧な作品。画風と物語、タイトルが相まって水の底を漂う様な静かで優しい作風を生み出している。クライマックスで見せた自由なカメラワークも秀逸。これほど魅力的な決めコマは滅多にお目にかかれない。
■業田良家氏■
シンプルな線とトーンながら水の表現がどれも巧く、特に8ページ1コマ目の水中から急に顔を上げたシーンは見事。画面の中に水の存在を感じた。また、青春時代の悩みとそれからの再出発を「コースロープ」というプールの器具を使って上手に表現している。
■こざき亜衣氏■
伝えたいイメージが明確かつ演出が意図通り機能していて、シンプルな絵なのに表情があって大好きです。コースロープを外すシーンは雨がプールと外の世界を繋ぐようで、つぐちゃんの回復の予感を感じて胸が高鳴りました。
入選 賞金50万円
[アヤビバレンス] 原作:牧みどり/作画:ナイハラ 44歳/22歳・東京都
STORY
新米教師の石澤綾子。職場の鬱憤を、居酒屋で音楽を聴きながら飲むことで発散していたところ、店員の青年と意気投合する。そして青年は綾子の家に転がり込んでくるようになるのだが…
■石塚真一氏■
人間関係から生じる心情をしっかりとらえています。「どうなっちゃうの?」という気持ちでページをめくりました。1話にまとめる力も高く、現代を生きる人々を描ける作者だと思います。
■太田垣康男氏■
壊れていく心模様を丁寧に積み重ねる事で共感とも違う「観察」に読者を誘う技ありの作品。それを表現する絵も多彩で実にリアル。この先の地獄も「観察」したくなった。
■業田良家氏■
一瞬ありがちな話だと感じるが、ネームも良くて絵の表現力も高いので主人公の揺れ動く感情が伝わってきた。終わり方はやや分かりづらかったが、感情表現が巧みで特に怒りの表現が素晴らしかった。
佳作 賞金30万円
[アンドロイドは夢を見る] 和島直樹 24歳・栃木県
STORY
カイルとユーリは、対兵器用の武器とその補佐として戦場を駆けるアンドロイド。終戦を迎えようとする中、2人の前に現れたのは…
■石塚真一氏■
良い意味で考えさせられる作品です。生きる意味、存在する意味、利他と利己等々、ひとつの話の中に問題が複数提示されています。自由な世界観の中に見る感情をこれからも表現していってください。
■太田垣康男氏■
荒削りだが、磨けば光る可能性を感じた。分かり易く緩急を付けたアクションシーンが最大の武器。絵の描き込みも程良くて分かり易い。この「分かり易さ」は連載作家に必須のスキル。しっかり磨いて才能を伸ばして欲しい。
佳作 賞金30万円
[さよならバードランド] 赤城ナツイチ 25歳・埼玉県
STORY
軽音部の村上は片想いしていた。古い洋画やジャズが好きな、ひとつ上の先輩に。でも上京した彼女はどんどん変わっていってしまい...
■業田良家氏■
最初は「先輩」が先生と付き合っていたとは思わず、巧い話の運び方だと感じた。好きな女性への憧れや妄想が壊れる痛みがよく伝わってきた。人物も背景も描けているので、もうひとひねりがあれば更に良くなると思う。
■こざき亜衣氏■
雪の表現と、男女ともに可愛く描けている点が良かったです。絵、描写、演出で充分物語が伝わるので、モノローグは減らしてよいと思います。個人的には、爛れた後に人として相手と向き合う姿を見てみたいと思いました。
佳作 賞金30万円
[裸の内側] ナシウヒカ 東京都
STORY
主人公はヌードデッサンに自信を持ち、描き続ける美大生。しかしある日、教授から痛烈なダメ出しを受ける。悩める彼女が向かった先は――
■浅野いにお氏■
衝動的な絵柄と表現で勢いがありますが、極めて主観性が強く、全体的にアンバランスな印象でした。表現に強弱があるのは良いので、加えて読者の立場に立って丁寧で論理的な作品作りを意識して欲しいと感じました。
■太田垣康男氏■
髪留めが小鬼の角に見えるオープニングカットで摑まれた。裸婦への探究心からストリップショーに行く展開も微笑ましい。裸に魅了されるにつれて主人公も裸になっていく演出も微笑ましい。実に健康的な作品だ。
佳作 賞金30万円
[ペットボトルの向かう先] あいだ朮 33歳・千葉県
STORY
社会の理不尽を感じるOLの足下に転がってきた、空のペットボトル。様々な人の手を巡り、ペットボトルはどこへ向かうのか―――
■浅野いにお氏■
作画技術はこれからですが、スリリングな展開と読後感は申し分ないです。冒頭の女性を再登場させる等構成を更に工夫すれば読者を驚かせられたかもしれません。投稿作では珍しい、構成で魅せる作品だったのでとても感心しました。
■業田良家氏■
電車の中で転がるペットボトルの行く先々で様々な人間模様が描かれていくアイデアが上質で面白い。人々の苛立ちや怒りが最後は小学生の作った工作、つまりは芸術(?)に昇華されてホッとした。
審査員総評
浅野いにお氏
各作品が個性的でオリジナリティへの意識を感じましたが、結末が急な作品が多かったです。読切作品はキャラの一瞬の切り抜きという側面があるにしろ、今回は全作品がそれなりの長さです。ならば、キャラが日常へ帰ったあとの後日談があったほうが、満足感の高い作品になると思います。新人時代は作話で精一杯で詰め込み過ぎてしまうことも多々あるとは思いますが、余韻を大切に、丁寧な作品づくりを目指して欲しいと感じました。
石塚真一氏
今回も個性的な作品が集まりました。次作へ進む中でぶつかる壁に、自分、もしくは自作の「ちっぽけさ」があります。自分の小ささに焦り、傑作を求めてしまいますが、そんな時こそ「ちっぽけな何か」を大事にして欲しいです。木の葉の色、虫の動き、街で会う人の態度の面白さ…みなさん一人一人が気付く「ちっぽけな何か」を漫画にして伝えてください。そんな作品を読み手は「傑作」と感じてくれると思います。
太田垣康男氏
大豊作。これほどハイレベルで読み応えのある作品が集まるのも珍しい。絵も個性的で演出もテクニカル、メッセージ性も高く皆プロとして充分に通用するだろう。彼等が連載作家としてデビューする日が待ち遠しい。皆「自分の殻を破る」最初の壁は越えているので次は「人気作家になる」壁に挑戦して欲しい。プロ漫画家は読者のハートを摑まなければ食って行けない人気商売。次の壁も険しく高いが是非乗り越えて欲しい。
業田良家氏
今回も絵のレベルは高いですが、個性が足りないと感じます。私の場合、デビュー前後で大きく絵柄を変えました。読者に愛されるよう、どんなジャンルでも描ける絵柄を目指して意識的に絵柄を作り上げたつもりです。壁にぶつかった時はたくさんデッサンを描きましたが、実際に漫画を描く時はデッサンのことは忘れて魅力的な絵にすることを意識して描いてきました。自分なりのやり方を考えて魅力と個性のある絵柄を開発してください。
こざき亜衣氏
今回は全体的に不思議と、良くも悪くも講評しづらい作品が多かった印象です。独自の世界観や表現したいテーマがあるのは素晴らしいのだけれど、人を楽しませようという目線が足りていない。根本的にどこを向いているか、誰に読んで欲しいのか、という話なので、具体的なアドバイスが難しかったです。しかし、どの作品も読みづらさがなかったのはすごいです。漫画表現として一定のレベルに全員が到達しているからこそ、その先の難しさが出てきているのだと思います。