第94回新人コミック大賞(青年部門)に、たくさんのご応募ありがとうございました!! 厳正な審査の結果、大賞1作、入選1作、佳作3作が選ばれました。
受賞者の皆様おめでとうございます!!
該当誌
ビッグコミック
ビッグコミックオリジナル
ビッグコミックスペリオール
ビッグコミックスピリッツ
応募総数:76作
2次審査通過:17作
3次審査通過:8作
大賞 賞金200万円
[君がいないと毎日は生きれない] 壽久 28歳・東京都
STORY
毎月誰かが辞めていくブラック会社で働くユキ。SNSで知り合ったテルと気が合って仲良くなるが、ある時ついに心が壊れてしまい、家から出られなくなる…そんなユキを心配して、家に訪れたテルは!?
■浅野いにお氏■
全体のスキルがかなり高く、インパクトがありました。多少のコマ割りの粗以外は読みやすく、キャラの感情がよく伝わります。テルの激変を主人公がすんなり受け入れてしまう物足りなさはあるものの、非常に満足いく読後感です。
■石塚真一氏■
最高だね!!良い!!登場する二人が同じくらいしっかり描かれています。心情の切り取り方も、ベタの強い絵の表情もグッときます。みんなに読んで欲しいなあ~…
■太田垣康男氏■
抜群に絵が上手い。ここまで心象風景が描ける新人も珍しい。キャラクターのヒリヒリした心の状態が手に取る様に分かる。底から這い上がって掴んだ自由な心も。退職届を一緒に書く、という寄り添い方にも感動した。
■業田良家氏■
私の世代の苦悩とは全然違う、現代の若者の苦しみが伝わってくる。より絶望的だ。それでも友情や恋愛で立ち直っていく。そこに救いがある。絵的にはベタの使い方が大胆で美しい。感情表現も巧い。才能を感じた。
■こざき亜衣氏■
カタルシスを得るための仕掛けや演出はいくらでもできると思うけど、それを一切しないのが正解だと思えるのがすごい。二人の間に流れる空気感が私は好きでした。ここに第三の人物を入れてエンタメ性を持たせることもできるけど、このままでも良いので難しい。
入選 賞金50万円
[しえん] 市井市蔵 27歳・長野県
STORY
役者になる夢を諦め、企業の営業として働いている青年・高明。自らの過去に折り合いをつけて今を生きていたが、ある日、立ち寄った喫煙所で懐かしい人と出会い―?
■浅野いにお氏■
実在感のあるキャラと物語で、非常に身に染みました。会話劇にタバコのアクションを挟むことで冗長にさせない上手な構成だなと感じます。全体のノリやリアリティはそのまま、キャラ造形を漫画的にしていくとなお良さそうです。
■業田良家氏■
回想しながらのストーリー作りはすごく難しいのだが、わかりやすく上手に展開されている。叶わぬ夢を葬り去れない心情を電子タバコと紙煙草の比喩で描かれているのも良いアイデア。
■こざき亜衣氏■
冒頭の絵だけで電子タバコの"絵にならなさ"が描けているのが何よりすごいと思いました。特別な出来事も直接的なセリフもないのに、主人公の変化が伝わりカタルシスがありました。素晴らしいです。
佳作 賞金30万円
[おカネしか勝たん] カゲワサビ 28歳・東京都
STORY
トー横キッズ・由那(14歳)は、オッサンに体を売り暮らしている。ある日、小学校時代の同級生・リコから久し振りに遊びたいと連絡がくる。由那はお金をくれるなら良いと答えるが…
■浅野いにお氏■
シビアな設定を柔らかい絵柄とカラッとしたノリで描いていることにとても現代性を感じました。キャラの表情が良く、多くを語らずともドラマを感じられます。結末はもう一声あってもいいかなと感じましたが、読後感はとても良かったです。センスは十分だと思うので、違った題材の作品も読んでみたいです。
■石塚真一氏■
若者達の心情を実 にたんたんと、でも確実にとらえています。既存の価値観にとらわれない生き方に現代を生きる強さを感じました。
佳作 賞金30万円
[しろいとり] 添田おうげん 21歳・東京都
STORY
雪が降り積もるとある街。中学2年生のよしおくんは一学年上の田中先輩に密かに想いを寄せている。進路選択が差し迫る中で、思春期の感情が揺らぎ…
■太田垣康男氏■
何気ない日常を印象的に見せる演出技法はおそらく天性のモノ。構図の取り方が上手い。画力が向上すれば情報量も更に増えて漫画の魅力も増す事だろう。志望校に入学出来なかった事を冒頭に持って来る演出も粋。今後の成長に期待。
■こざき亜衣氏■
青春よりも一歩前の白くてやわい一瞬を美しく切り取っていますね。露悪に走らず踏みとどまった仕上がりに痺れ、何度も読み返したくなります。技法に消されない個性があるので、絵の細部にもこだわってみてほしい。
佳作 賞金30万円
[初めての殺人] 井上宗 26歳・大阪府
STORY
誰もが銃を所持するどこかの街。「最初に撃つ相手は極悪人」と言い訳をしながらもじもじ青春を送っていたサイトーは、転校生のアヅマさんに一目惚れし!?
■太田垣康男氏■
独特の緊張感が漂う暴力的だが美しい作品。キャラクターの眼力から見える感情も魅力。どこか寓話的な物語が殺伐とした展開すらコミカルに見せる。ヒロインの太腿が眩しい程に美しく、主人公が一目惚れしたのも頷けた。
■業田良家氏■
街中で人が殺されても平然と通勤通学に向かう群衆。こんな世界観を当然のことにように受け入れた。つまり、現代の日本は本質的にはこうで、人を殺すより好きであることの方が困難だ。この作者の感受性は鋭く、光るものがある。
審査員総評
浅野いにお氏
全体的にハイレベルで、特に高得点の作品はいずれも個性がありました。作風がすでに出来上がっているものが多かったので、今後はその持ち味をいかに連載へ繋げていくかが課題になると思います。昨今の青年漫画は大きな流行がなく、読者の好みが予想できません。ヒットの最低条件はあるかもしれませんが、いずれにせよ個性は他作家との差別化に必須です。くれぐれも心が折れぬよう、自分の芯を大事にしてください。
石塚真一氏
1本の漫画を仕上げまで描くのは根気のいる作業で、入賞うんぬん問わず、一つの達成だと思います。どうぞ自分自身をたたえてあげてください。今回の応募作品にはバラエティに富む人間像が沢山出てきました。新たな考え方との出会い程ワクワクすることはありません。既成概念や社会通念を軽々と超える力が漫画にはあると皆さんの作品から教えられました。というワケで、今回の〆の言葉はこれで…マンガはパンクだ!!
太田垣康男氏
今回の最終選考には「読者」を意識した漫画が少なかった。作者の自己満足の為、自分を鼓舞する為に漫画を描くのも良いが、誰がその漫画を評価するだろう?その漫画を喜ぶのは自分1人ではないか?プロ漫画家は「読者」を満足させ、「読者」を鼓舞する為に漫画を描く。新人たちの思い出の中にも、読者だった頃の自分を励ましてくれた漫画がある筈。今度は君が読者へのラブレターを描く番だ。プロ漫画家への道はその先にある。
業田良家氏
今回も好きな作品が多かった。若い感受性に刺激を受けて読むのが楽しかった。絵柄も魅力的な人が多い。まだどこにも公開されていない作品を読むことができる喜びを感じた。これは編集者の喜びでもあり、醍醐味でもあるだろう。私も誰かを担当して才能を開花させてみたいと一瞬だけ思った(笑) まあ難しくて編集者でない私にはできない話なのですが。
こざき亜衣氏
非常に完成度が高い作品ばかりでした。理解できずに読み返したものはひとつもなく、ただ面白く、味わいたくて、深めたくて、何度も読み返しました。見開きを有効に使ったものが多かったのも新鮮でした。電子や縦スク漫画が主流になって行く中、見開き演出で読ませてくれる新人作品があるのは個人的にとても嬉しいです。面白い以前に、素直に「好き」と思える作品が揃っていて本当に嬉しかったです。読ませていただいてありがとうございました。